以下は、株式会社NAC星野農場長のブログ記事です。
巷に広がる野菜の誤解について②野菜は虫を利用している!?
だんだんどうも!かーびーです^^
前回に続いて有機野菜にまつわるお話を、
9年間に渡って無農薬栽培をして観察してきた実体験を元に書いていきます。
今回のテーマはこちら。
・野菜が自ら虫を呼んで食べさせている?
ではいきましょう!!
【野菜が自ら虫を呼んで食べさせている?】
前回の記事の最後の方に、『虫はメタボな野菜が大好き!?』ということを書きました。
それについての掘り下げになります。
野菜よりも雑草に群がるアブラムシ
これは私の畑ではもはや定番。春の風物詩といっても過言ではないくらい、毎年観察できます。
どういうことかといえば、そのまんまなのですが、ソラマメやエンドウ、イチゴなどよりも一緒に生えているカラスノエンドウやナズナ(ぺんぺん草)の先端にたくさんのアブラムシがくっついています。
それと無農薬でイチゴ栽培を成功させた農家さんに聞いたのが
『アブラムシが大量についてしまってどうにもならなくなったイチゴ苗をそのままにしていたら、その後に生えてきた葉っぱには全くアブラムシがつかなかった』
という話。
ちなみに全く肥料も農薬も入れていない私の畑のイチゴには全くアブラムシがつきません。
見たことないレベルで全くつきません。近くのカラスノエンドウにはいっぱいついていてもです。
エンドウにも殆どつかず、ソラマメはたまに群がっている株がある程度です。
2021年2月22日撮影:アブラムシがつきやすい先端にも殆どいません。もちろん無農薬。防虫ネットなどの防除も無し。
↓こちらはイチゴの写真。花が咲く頃、実り終えた後、どの時期にもアブラムシは一切つきません。
2020年5月10日撮影:ちょっと草取りサボりすぎて埋もれ気味ですが、たくさんのイチゴが実ってます。授粉作業も虫任せでやってません。
このことはYouTube動画でも紹介・解説していますのでよかったら↓こちらも見てみてください。
実例を挙げたところで、これらについてを考察していきます。
【余分な養分を虫に吸い出させて『ダイエット』している?】
野菜がダイエットするというのもおかしな話に聞こえますが、植物は私たち人間のように食べたり飲んだりを意思をもって行えません。根の周りにある吸収できるものを吸い上げて生長します。
人間で言うなら、食べない方が良いけど食欲に負けてたくさん食べてしまう、食べられるところまで食べ続けてしまうといった感じです。
そんな状態が続けば野菜も人間も不健康になります。
人間は運動量を増やす、食べる量を減らすということができますが、野菜には出来ません。
(※ここからは実際に起こる生理障害を元に私が考えた推察・仮説だと思ってお読み下さい)
土の中に窒素分が多いと起こるのが、微量元素(ミネラル分)の吸収が妨げられて、葉や茎(ツル)だけが大きくなって実を付きにくかったり大きくなりにくくなる葉ボケ(ツルボケ)という状態です。
葉物野菜だったら『野菜が大きくなった良いじゃん!』となりますが、それは人間の都合。
(根菜や果菜だと人間側も困るけどね。それに味も悪くなりますし)
野菜も生き物なので、子孫を残すことこそが本来の最も重要なこと。
実が付きにくくなるというのはタネが出来ない、出来にくくなることです(人間だと不妊といえるかな)
体ばかり大きくなって子孫を残せないのは野菜にとっても不都合。
でも土の中にはまだまだ沢山の窒素分、それを吸収するのはやめられない。さてどうしようか…
そうだ!余分な窒素を虫に吸い出してもらおう!
…というように、まるで脂肪吸引してもらう感じなのかはわかりませんが、
『窒素肥料分が多いと、早く大きくなり、虫に食われやすくなる』
というのは私だけで無く、自然農や有機農法をやっている人たちの間ではけっこう聞かれる話です。
その事実に、他の現象や生理障害を組み合わせて考えてみるとあながち間違ってもいないんじゃないかなーと思います。
【種(しゅ)の生存戦略で虫を呼んでわざと枯れさせている?】
もう一つ、畑で見つけた現象から野菜が虫を利用している説を考えてみます。
ダイコンのタネ採り用に残して花を咲かせていた畝で起きたのが、他のダイコンの花には全く虫がついておらず、実ができていたのですが、1株だけアブラムシが群がって枯れかけている株がありました。同じ畝で隣り合っているのにも関わらずです。その後アブラムシが広がる事もなく、その株だけ枯れました。
『その株だけ弱った為、虫に食われて枯れた』とだけ見てもよいのですが、もう少し踏み込んで考えるとなぜ弱ったのか?
その畑も無肥料栽培を続けていたし、他のダイコンは元気だったので肥料過多が原因とは考えにくい。
モグラやネズミによって根を傷められたから弱ったという可能性もありますが、だったら他にも枯れる株が出てくるかもう少し範囲が広くなります。そこで、
環境に適合しない個性の個体だったから弱ったという可能性を考えました。
昔ながらの品種である固定種はF1品種に比べて遺伝的多様性が豊富なため、形や大きさ、生育スピード、病気や虫に対しての抵抗性にバラツキが出やすいです。
それらは、いっぺんにたくさん栽培・収穫して、規格に合った物を出荷する工業的農業においては生産効率が悪くなるので、なるべく色々なものが揃うように改良された品種が使われます。
さて、バラツキがあるのと、みんな揃っているのではどちらが自然界で生き残っていくでしょうか?
みんな揃っている物は、環境にマッチすれば繁栄できますが、環境が変化すれば一気に絶滅するリスクもあります。ハイリスクハイリターン。…では困るので農家さんは環境を一定にするために、土に肥料や石灰を入れたり、虫や菌を薬で殺して管理するわけです。
一方、個性にバラツキがあると、枯れる個体もでるけど生き残る個体もあり、種(しゅ)としての生存確率が高まります。
(生物種間でこれが起きるのを自然淘汰といって環境に適応できた種が生き残っていくわけです)
このことを考えると、環境に適応出来なかった遺伝子が残ると種としてはマイナスなので、
タネを作る前に虫を呼んで枯れさせたのではないか??
と考えてみたんです。
ーまとめー
今回は一部の野菜や事象を例にして、あれこれ考えてみましたが、全てのケースに共通しているわけでは無いことをお忘れなく。
自然界はいろんな生き物同士のバランスによって成り立っています。
その関係が、一方的に利用する寄生なのか、お互いにメリットのある共生なのか、食うか食われるかなのか。寄生や補食は、される側にすれば一見マイナスでしかないようにも見えますが、それが行われることで数が増えすぎずに調整されて結果的に種が存続していくとも考えられます。
そんな自然界の繋がり、循環という大きな視点も踏まえてから、ぐーーっと焦点をせばめていって虫食い野菜について考えてみるのも面白かと思います^^
当たり前すぎて書きませんでしたが、被子植物の多くは虫によって花粉を運んで貰っていますからね。その為に見つけて貰いやすいように花の形を、香りを出したりしてますし。
そういえば、
『農作物は人間に都合の良いように進化することで、人間を利用して世界中に広がる事に成功した』
なんて考え方もあるのを思い出しました。案外、利用されているのは私たちなのかもしれませんね。
今回も長くなったので、ほんとうは2つ目次を書こうと思ったのですが、次回にします。
次は【自然農のキュウリはまっすぐ育つし曲がる場合もある】について。
ということでまた次回。
※後で間違いに気づいたり、追加情報書きたくなって加筆修正したりするので、よかったら時々見直しに来てみてください^^
【オマケ補足】
自然界では広い範囲が急に肥える(養分が急増する)というのは起きにくいです。
動物が糞をしたり、大きめの動物の遺体がある場所は局所的に急に肥えるでしょうけれど、
それらの形がはっきりしている内は植物は生えてきません。虫や他の動物によって食べられたり、雨風・微生物などの働きで分解されて土の養分となります。
広い面積が肥えるといえば、河川の氾濫(洪水)によって肥沃な土が運ばれてくるというのは社会の授業で聞いた話ですが、これの場合は環境を一変させるような大破壊とセットになりますね。